第5章 いざ高専へ
「あたし、五条家で良かった。悟くんはいじめっ子だったけど、今思えばあたしがどうしようもなくなった時は優しかったし、遊ぶ相手が禪院家の坊っちゃんじゃなくて悟くんでよかった」
「なに? 最後んとこよく聞こえなかったけど」
「だから……遊ぶ相手が直哉さんじゃなくて悟くんでよかった、って」
「誰でよかったって?」
「悟くんで……ってもう! 絶対聞こえてるでしょ!」
夕凪が俺の期待通りに反応してくるから思わず笑って、夕凪もつられて笑ってる。
やっぱりあえてこの雰囲気を壊さなくてもいいんじゃないかと思うけど、俺と付き合ってる事ははっきりさせたい。
さっきのカラオケで1年の男らが何歌ったかとかそんな話しながら歩くと夕凪があたりを見回し始める。俺と離れるみたいに左に寄っていくから詰めた。
「話しづれーだろ。車の音うるせーし」
聞こえてるだろうに知らんぷりして夕凪はさらに左に離れる。俺が更に左に詰めると行き場を無くしたのか今度はぐるっと回って俺の右側に立った。
「なにしてんの?」
「悟くんの隣ってじろじろ見られるし、ちょっと離れて歩いて」
夕凪の悪い癖が出始めた。これからも俺の隣にいるんだからじろじろ見られるのは慣れるしかない。