第5章 いざ高専へ
夕凪の手首を取りながら高専の中をぶらぶらと当てもなく歩く。歩きながら俺は夕凪が興味ありそうな結界の話やら危険な呪物を保管してる忌庫の話なんかをした。
夕凪は真面目ぶりを発揮して「テストに出るのか?」とか聞いてきやがった。出るかよ、テストなんかねーよ。
だけどあまりに真剣な顔して訴えてくるから可笑しくなって、話にのっかった。「丸暗記しろ」って言ったらその場で俺の言葉を暗唱し始める。
さすがに可哀想かなってホントの事言うと夕凪が餅みてぇな頬っぺたしてむくれて。
マジで可愛いやつ。俺はそんな夕凪と手を繋ぎたくなった。校内の中でも少し足元が悪い、木々が無造作に生い茂ってる道へと夕凪を誘導する。
こういう場所で手を繋ぐなら自然だろ、そう思って俺は夕凪の手首を離して手を握った。ガキの頃は変わらない大きさだったのに今では俺より全然小さくて指も細い柔な手。
「転ぶ前に握っとく」
「う、ん」
俯いて恥ずかしそうに夕凪が頷く。だけどそんな空気に耐えかねたのか、やっぱりいいとか言って強がり言ってくる。ま、想定内だ。
「あん時も倒れ込んできたじゃねぇか。桜の道で」
「……5歳の時のこと? あれは、草履を履き慣れてなくてまだ小さかったし……ってそんな昔のことよく覚えてるね」
「間抜けなやつって思ったからなー。忘れねーよ」
「何それ、ひどー」
俺たちはそのまま手を繋いでしばらく歩いた。たわいもない昔話なんかしながら。夕凪も手を握り返して指絡めてる。嫌じゃねぇんだろう。
これって……付き合ってるよな?
夕凪の顔見ても、これまで俺がごまんと見せられてきた恋する女っていう顔してるし、俺のこと好きだろ。それ以外になんだってんだ? 別に聞いたっていいけどさ、
「なぁ、俺のこと好き?」
「うん、好きだよ」
って好きの確認して終わるだけじゃねーの?
俺と夕凪の関係はそんなんよりもっと深いような気がするし、抱きしめあったし、もう十分確証は取れてる。
傑や硝子が言ってた、俺がふられる云々はありえねーわ。ぐだぐだ考えるのは性に合わねーし、俺は夕凪は彼女だと確定した。