第5章 いざ高専へ
だけど、いざ、高専に来てみると、悟くんは腕なんて広げてない。
「時間取れたら行くかもしんねー」
そうメールに書いてあったから、あたしは教室の入り口をちらちら何度も確認してた。
そしたら姿が見えたから、あたしはこれでもニコニコと笑みを浮かべて悟くんに近付いたつもり。「悟くん来たよ」って言って可愛く微笑んだつもり。
だけど、あたしのことなんかそっちのけで、「よぉっ」て一言、言ったっきり彼は同級生の七海と灰原を見てた。「大した事ねーな」って言って去ろうとする。後輩イジメにでも来たの?
悟くん、あたしの事見えてる? ポニーテールは中学で卒業して、髪下ろしたんだけど気付いてる? 切ったんだよ少し。セミロングにしたの! ねぇ、聞いてる?
……悟くんに期待するあたしがバカだった。意を決して高専に来たのに。悟くんの言葉があたしの心を動かしたから、一緒にいたいと思ったからお母様に許しを得てここに来たのに。
別に髪型変えたところで可愛いとか言ってくれないのは知ってるけどせめて「よく来たな」くらい言ってくれたっていいじゃん。おぉ、って何よ、おぉって。
「よぉー」と「おぉ」しか言ってないじゃん。
「悟くんなんか嫌い」
思わず口に出た。このセリフはこれまで何度も言ってきたけど久々に出てしまった。悟くんは「はぁ?」だってさ。
あたしがひとりで盛り上がってただけなんだ。頭の中、お花畑になってたんだ。あぁ馬鹿らしい。冷静なろ。呪術頑張ろ。ちょっと浮ついていたかもしれない。
あたしは悟くんの為だけにここに来たんじゃない。ひとり立ちして五条家にお世話にならなくていい力をつけるんだ。呪術師として一人前にやれてます! って胸を張る為にもここに来たんだ。
フンッ、あたしは悟くんに背中を向けて同級生の元へ向かった。