第5章 いざ高専へ
「夕凪、高専頑張って。お母様もお父様に同じように言われたわ。側でお母様のこと見てたいって、近くにいてほしいって。そしてその時、お母様もお父様の側にいたいと思ったの。逆風だらけだったけど」
「そしてお母様は自分の選んだ道を後悔してないわ。最後に任務に送り出したあの日も好きってあの人に伝えられたから」
お父様との記憶が甦ったのだろう。お母様の薄桃色の唇がわずかに弧を描いている。その時の会話を思い出しているようだった。亡くなって15年近く経った今でもお父様の事を愛してる。そういう顔をしている。
「お父様は、生前、夕凪がお父様が願うような女の子に育っていれば五条家ならきっと幸せになれるはずって言ってたわ、だからもし自分に何かあって御三家を頼るなら必ず五条家にしろって言ってたの。理由はわからないけど」
「夕凪は実際、五条家でこんなに可愛がられて育って、坊っちゃまにも愛されてるんでしょ? ふふ、可笑しい。あんなに仲が悪くて、坊っちゃまの事、嫌ってたのにね。お父様が話してた事は本当なのかもしれない」
お母様はあたしの頬っぺたをぐにぐに動かして頭をぽんぽんと2回軽く叩く。幼い頃、悟くんと遊ぶのが嫌でグズった時よくこうやって悟くんの元へ送り出してくれた。「悟くんに好かれるおまじない」って言って。
「気をつけて、そして死なないでね夕凪、お母様とお父様の最愛」
お母様は最後そう言って、もう一度強くあたしを抱きしめ、高専への入学を許可してくれた。二つだけ条件を出される。お父様へのお墓参りと、不通になっていた親戚への顔見せ。
呪術師はなにがあるかわからないから、って夕凪が存在してた事をちゃんと知らせたいからって、お母様は絶縁状態だった両親に連絡し、お父様方の親戚にも連絡を取ったようだ。
そうして、お正月は五条家を離れ、あたしは初めて親戚の家を回ることとなった。まるで、あたし戦争に行くみたいに、命を落とす前提みたいになってるけど、あたしは絶対死なないからね!
お父様のためにもお母様もためにも死ねない。悟くんが危機になったら勝手に身体が動いてしまうかもしれないけど、悟くんは死なせねーって言ってくれたし。