第5章 いざ高専へ
「そう、だったの」
「お願い、夕凪、呪術師はやめて。あなたはお父様が生きたことの唯一の証なの。骨も何も残らなかったけど、お母様に夕凪だけ残してくれたの。あなただけがお父様の形見なの」
「……」
お母様の顔は見なくてもわかる。声でわかる。多分泣いてる。あたしも話を聞きながら目の縁にたまった涙の粒が今こぼれ落ちた。
お母様は見える側の人間だが術式は使えない。窓をやっていて呪術師だったお父様と偶然、出会ったらしい。
すぐに恋に落ちて、お母様の両親は呪術師なんて危険な仕事をする男との交際など許さないと反対し、駆け落ち同然でお父様と結婚したらしい。
だからか。お父様が亡くなったときお母様は本当にひとりぼっちで頼るところがなかったと言っていた。お父様方の親戚はいるにはいるが、遠方に住んでいて生きているのはお祖母様だけだ。
あたしの術式はお父様と同じで、尊家にたまに生まれる特有の術式。だから、あたしの命はあたしが生きることはお母様にとってはお父様の遺伝子が生きること。
お母様の話を聞いて心が揺らぐ。揺らがないわけがない。
でも……
「お母様ごめんなさい。親不孝な娘でごめんなさい。夕凪を許してください。悟くんが、五条悟が高専で待ってるの」
「へ?」
「悟くんが、いてほしいって、あたしに。そばで俺を見ててほしいって、そう言うの」
「坊っちゃまが、夕凪に、いてほしい?」
「うん、あぁ、あ、別にそんな何もお母様が心配するような関係じゃないよ、違う、違うんだけど、ほら、長く一緒にいたでしょ? だからこき使いたいんじゃないかな? 靴下が片方ないけどどこだよ! とかそういうの、アハハ」
冗談でごまかそうとしたけど、お母様の目は真剣だ。あたしの目をじっと見つめている。