第2章 豹、全国へ行く
監督からの言葉をもらい、は荷物をまとめて帰路につく。
いつもは歩く道を、今日は母の車に乗って帰る。
の母は何も言わなかった。
もしくはかける言葉が見つからなかったのか。
車内は会話ひとつないとても静かな空間だった。
にバレーを始めさせたのは、母だった。
きっかけはよくある、体を丈夫にするため、スポーツによって礼儀を身に付けさせるためだった。
それでも毎日新しい技を身につけ、楽しそうに話すの姿を見て、いつしか誰よりもサポートしてくれていた。
あまりに静かな空間が、にあのときの光景を何度も思い出させた。
『、っ』
青みがかったの瞳に透明の膜が貼り始める。
ああ、泣かないなんてやっぱり無理か。
がそう思った瞬間、涙が止まらなくなった。
『っく、、っふ、』
はダムが決壊したみたいだとチームメイトの涙を見て思ったが、全く人のことを言えないほどに涙がの頬を伝った。
涙は止まらないけど、の頭は何だか冷静だった。
まるで次にやることが決まっているかのように。
バレーができなくても、バレーボールのそばにいることはできる。
その方法を知っていたからか。
または、
教える側の人間がとても楽しそうなのを幼い頃から何度も見て知っていたからか。
もしくはその両方か。
とりあえず、彼に話をしよう。
私の大師匠に。
大粒の涙を流しながらも、は頭ではそんなことを考えていた。
どうやら私は本物のバレーバカみたいだ、とも。
バレーボールから離れる選択肢はもはや、の中にはもうなかった。