第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
ー植物園
早朝。いつもより早めに家を出て、先生と約束した魔法の花の手入れをしに植物園へと向かう。幸いオンボロ寮から一番近い場所にある為、そこまで苦労はない。
朝一ということで、
人の気配はほとんどなかった。
騒がしいグリムは最近マジフト部のレギュラー枠を狙っているようで、元気よくサバナクローに行ってしまった。
ユウはふと思う。
一人の時間は、ずいぶん久しぶりだなぁ。
いつもグリムやエース達が周りにいてくれるおかげで、孤独を感じることはなかった。
澄んだ空気を思いっきり吸い込み、気温が管理され色とりどりの花植物が生い茂る園庭を歩く。
緑の包み込むような優しい風が、おしゃべりしている花たちの花弁を揺らす。
先日、クルーウェル先生に案内された場所は魔法石の結界が敷かれているので、周りよりもちょっと異質だ。なんでも悪戯されないように魔法がかかっているとか。
そっーと一歩踏み出す。
何も起こらない。大丈夫と聞いていたけど、良かった…と安心して胸がホッとした。
目の前の魔法の花は、先日咲き誇っていた花びらを閉じて蕾の姿に戻ってしまった。まるで固く口を閉ざす貝のようだ。
パチパチと花火のように輝く花柱をもう一度みたいと、先生におねだりしたが「次に花が咲くのは100年後だから安心しろ」と全然嬉しくないセリフを頂いてしまった。
スースーと気持ち良い風が頬を撫でる。
カサカサと草木も気持ち良さそうに
返事をするものだから、
平和な空間についぼーっとしてしまう。
植物園がレオナ先輩のお昼寝スポットなのも
納得の居心地の良さだ。
「さて…何を歌おうかな」
制服のスカートが汚れない様に下にハンカチを置いて、花の横に体育座りをした。
お隣さんは何も喋らない。
せめてリクエストでもしてくれれば、
こちらも歌いやすいのになぁ…と脳内でぼんやりと考えた。
うーん…と考えても、
やっぱり
こちらの世界の歌などあまり知らない。
私の一番お気に入りの歌にしよう。
悲しくなるから
普段はあまり考えないようにしていた。
今は会えない…故郷の家族を思い浮かべた。