第7章 Magical flower(魔法の花)
その時クルーウェルは、先ほどユウが差し入れにおすそ分けしたレーズンタルトをじっと見ていた。
彼の好物はレーズンバターだが、同じような独特のまだら模様を見ているだけで、疲れた心がホッと休まる。客観的に見たら、レーズンのまばら模様で心安らぐ成人男性の図柄はちょっと心配した方がいい。むしろ転職をお勧めする。
彼の考えていることなど、露も知らないユウは、「いつも頑張っている先生へ。幸せのおすそ分けですっ」と可愛らしい顔でにぱっと笑った。クルーウェルは彼女が、天使かと錯覚した。
俺もいつの間にこんなに年を取ったのか……と無意識に目頭が熱くなる。そろそろ労災を申請した方がいいのかもしれない。
独身貴族で好き放題やってきたクルーウェルだったが、ユウの純粋な優しさは、枯れた大地に降り注ぐオアシスのようにすさんだ心を癒してくれた。なにせ此処(学園)には問題児か精神病か疫病神しかいないのだから。
「今日も良い毛艶だ、good girl!
お利口な子犬にはご褒美をやろう」
褒められて、えへえへと照れたように喜ぶユウの頭を優しく撫でる。クルーウェルは彼女が、自分の娘だったと錯覚した。(ちがいます)
最初の頃はひどい毛並みだった。
学園に来た時のストレスのせいか、はたまたトラブルばかり巻き込まれる体質のせいか…彼女の肌はボロボロでケアする余裕もなく、髪も枝分かれしていた。
自他ともにファッションへの造詣が深く、身に着けるものには一切の妥協をしないクルーウェルは、その審美眼で彼女の元の素材が素晴らしいと分かっていた為、余計ほっておけなくなった。
ダイヤの原石は磨かねば、勿体ない。
ヴィルとタッグを組んでビフォーアフターすれば、彼女は答える様にメキメキと美しくなっていった。見た目だけでなく、知識ゼロの勉強も本来であれば匙を投げる程であったが、彼女は人並み外れた努力で赤点常習犯から平均点を叩き出すくらいには成長した。
その健気な努力が、可愛くないはずがない。
この子犬は俺が育てました。
エコひいき?
当たり前だろ。ファッキュー。
と、どこからの学園長に向かって内心中指を立てた。