第6章 Rose prince (薔薇の王子様)
「めちゃかわぁ~♪
ユウちゃん写るとバズんだよね~」
満足気なケイト先輩に、ユウは苦笑いである。
止めてくれるかと思いきや、「ケイト。……ボクにも送ってくれ」とまさかの写真の要求しているリドル先輩。
「オッケー。けーくんのユウちゃんフィルダの中から選んどくねっ」
「ちょっと!…先輩、そんなのあるんですか?!」
「オレ、可愛いものが好きなんだよね~♪」
そう言ってニコニコとマジカメをいじくる。
ユウの批判めいた視線など、意にも返さないようだ。
(今度ケイト先輩と写真撮る時は、お金取ろうかな…)と考えていると、トレイ先輩が肩にポンっと手を置き、びっくりして飛び上がってしまった。
「ははっ…驚ろかせてしまって、すまないな」と悪気があまりこもっていない顔で笑われる。うん、今日も爽やか。
「これ、余りなんだが
良かったら持って行って寮で食べてくれ。
料理する手間も減るだろうから」
(神さまぁ……トレイ様……!)
「ありがとうございます!」と見たこともないくらい綺麗な90°で腰を曲げた。持つべき者はママ友(ユウが勝手に呼んでいる)。
にこぉっ…と幸せを嚙みしめて、頬が緩むと
「……最近、ユウのおかげでリドルの笑顔が増えたんだ。これからも、よろしく頼むな」と誰にも聞こえない様に耳元で囁かれた。
サっと持たされたバスケットの中には、転寮届がチラリと見えて、背筋がちょっと寒くなり、カクカク…と必死にうなずくしかなかった。
◆
お土産もゲットしてほくほく顔で、寮へ帰ろうとするユウ。課題はやったし、今勉強している範囲も予習済みだ。
珍しく久しぶりに余裕というものがある。
何しようかなぁ…と考え込む帰り道。
そう言えば、もう一人の保護者デイヴィス・クルーウェルから呼び出しされていたことを思い出した。
余裕がある時でかまわない…と言われていたが、
日頃なにかとトラブルに巻き込まれるユウには…悲しいかな、余裕がある時なんて滅多にない。
バスケットの中の、レーズンタルトを見て
(幸せはおすそわけしよう…!)と
素直なユウは職員室に足を進めた。
のちに、彼から頼まれる厄介ごとのせいで、
苦手な人魚に追い回されることも知らずに……。