第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
◆
ー学園 オクタヴィネル寮 廊下
「ジェイド」
「なんですか、アズール」
「随分と物静かでしたねぇ。ええ……怖いくらいに。
一体何を企んでるんです?」
「企むだなんて…。
僕は純粋にユウさんに、この気持ちをどうやって伝えるか真剣に考えていただけですよ。
あとは……群がる雄共の後始末を」
「ハァー…。
ここは陸だ。面倒ごとは御免ですよ」
「おや、陸でも恋愛と戦争では手段を選ばないと言う有名な格言がありますが?」
「お前はいつからトロイの王子パリスになったんだ。
とにかく!足の着くようなマネだけはしないように」
「善処します」
「全く…。
哀れなユウさん」
「嫉妬ですか?」ニコニコ
「うるせー」
深海の暗闇。悪巧みを考えるにはうってつけの世界。
フフフ…と笑うジェイドの金色の瞳が闇に溶けた。
◆
ーオンボロ寮
優しい朝の木漏れ日と、ピチピチと鳴く小鳥たちのさえずりでユウの一日は始まる。オンボロ寮という名に相応しい廃墟だが、そんな場所にもカラフルでメルヘンな小鳥たちがやって来るのを見るとユウの目が覚醒する。元の世界では存在しなかったスピスピと鼻提灯を揺れす魔獣を見る度に、ここはワンダーランドの世界なんだと実感するのだ。
「おはよう…グリム」
「ふなぁ…ツナかんんん…」
寝ぼけるグリムを抱き上げて、1階のキッチンへ向かう。今日もゴースト達が朝食を準備してくれているはずだ。
「おはよう、寝ぼすけさん。昨日はしっかり眠れたかい?」
「おはよう、ゴーストのおじさま。ええ、いつもありがとう」
「なんのなんの」
「グリ坊もそろそろ一人で起きれるようにならないとなぁ。これじゃあ、いつまでも親離れできない子猫だ」
「グリム、そろそろ起きて」
「ぶなぁぁ……」
光が眩しいのか、顔を前足で隠してゴメン寝状態しているグリムの背中を撫でる。ゴロゴロと音が鳴るのは、本当の猫ちゃんみたいだ。