第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
ー学園 鏡の間
フクロウが鳴く霧深い深夜。
シャンデリアの明かりが優しく揺れる。
照らされた複数の影はブラックモチーフの装飾品と混ざり込み、部屋の雰囲気をさらに暗く魅せていた。神妙な顔持ちでそこに集まっていたのは、名門ナイトレイブンカレッジが誇る七つの寮を治める寮長と補佐の副寮長達だった。(マレウスはいつもの如く不在)
端整な顔立ちをした生徒達は、皆その美貌に影を落としており、餌に飢えた獣のような獰猛な目つきで、口は一文字に固く結ばれている。誰一人として喋る者はおらず、全員が揃うまで、黙って木偶の坊のように一本に突っ立っていた。
長く学園の問題児を相手にしてきたであろう鴉がこの場にいたら「黙って待てができるようになったなんて、素晴らしいッ!なんて行儀が良い生徒たちに成長したんでしょうか!嬉しくて…私、涙が出ちゃいそうです…オオ゛」と場違いにもハンカチで涙を拭い、一秒後にはその生徒たちから自慢の羽を無残にも毟り捨てられていただろう。
簡単な話、皆我慢の限界を突破していた。
今目の前に可愛らしい七面鳥が通れば、問答無用でオーブンに突っ込んでこんがりチキンにしていただろう。ある者はそのチキンで頬を殴り合いしているかもしれない。
脳内でそう言ったアホな事や、絶対起きないであろう破廉恥なピンク動画や、世界中の哀れな人々を想って、少年たちは一秒一秒を必死に耐えていた。
そして最後の一人が集まり、血走った眼を向けて最初に口を開いたのはルール厳重の女王様だ。
「……時間だ。これより緊急ミーティングを始める。
各寮長と副寮長は揃っているかい?」
「トカゲ野郎の姿が見えねぇが…。
この件に関しては、ディアソムニアは不参加っつーことでいいんだな?」
「すまんが、あやつは欠席じゃ。例の人の子に関る事となると感情の制御が難しいのでな…。万が一学園を吹き飛ばす事態になれぬよう、今日は副寮長のわしが代役を務めるゆえ、許されよ」
「ケッ…過保護かよ」
「静粛に!!」
リドルが金切り声で叫び、副寮長のトレイの隣に鎮座した虚無顔のエースがドンドンッと木槌のガベルを打ち付ける。その目線は雄に「逆らった者から打ち首だ!」と言う熱いメッセージが語られていた。