第16章 Hecate's tears(ヘカテーの涙)
強敵に挑む射殺すような眦を向けるジェイドから発せられた言葉に、マレウスは驚いてポカンと目を開いた。
「これは驚いた…。
お前、あの娘に恋をしているのか」
「ええ、そのようです。
…気づいたのは先ほどですが」
「フッ…ハハハハ!
なんとまぁ…面白い話だ」
これは愉快!と笑い声をあげるマレウスに、今度はジェイドの方が拍子抜けした。
「最初から、そうではなかったはずだ。
なぜ気が変わった?」
「………心が変わったんです」
そう。
あの少女は、知れば知るだけ
愛しく想って仕方ないのだ。
興味本位の対象でしか見てなかったのに、いつの間にか心の一番近くに根を張っていた。
弱っている自分を見せたからかもしれないが、それでも彼女は馬鹿みたいにお人好しの笑顔を向けてきた。
その春の日差しのような笑顔に、心奪われてしまったのだ。
マジカルペンを変わらずマレウスに構えるジェイドだったが、興が削がれたと言わんばかりにマレウスが指であしらった。
「…彼女を傷つけないと約束するか?」
「誓って」
「そうか。…ならいい」
今まで受けていたマレウスからのプレッシャーが、消えた。このドラゴンは害ないと分かれば、ある程度の虫は許容するらしい。
「せいぜい足掻いてみせろ」
そう、捨て台詞を置いてドラゴンは去った。
残された人魚は、
吐き捨てるようにギュィ…と悪質なスラングを放った。