第15章 In the name of love(オクタの恋愛相談室)
ードボン、ドボン。
二つの影が水に溶ける。
弾丸のような速さで母なる海の底まで泳いで行ってしまったジェイドを追いかける為、アズールとフロイドも同じように人魚の姿に戻った。
逃げるジェイド。追うアズールとフロイド。急-緩-急の三つの章で構成されえる協奏曲のような動きだった。泳ぎ上手は川で死ぬというが、指定暴力団と悪行名高い彼らのマヌケな姿を見た者がいれば、指をさして大笑いしたことだろう。その者の命があればの話だが。
「こんなとこに居た。マジもんのウツボじゃん」
双子の直感とも言うべきか、探し物は案外早く見つかった。岩陰の闇に、その光沢のある薄緑色の尾びれを蜷局のように巻き付けた怪物が居た。哀れな小魚が迷い込みでもしたら、暗がりの奥に潜む怪物に一口で飲み込まれてしまうだろう。それ程その暗闇は恐ろしさを秘めていた。
だが、片割れのウツボはなんのその。
その姿が意外と面白かったので、器用に水かきのついた長い指で防水加工の携帯を操り、パシャっと写真を撮ってマジカメに上げた。ケイト・ダイヤモンドから秒でイイネが付く。
その音に反応してイラついたジェイドが尾びれを深海に叩きつける。砂ぼこりが水中に舞い上がり、近場のイソギンチャクや珊瑚は可哀そうな形にひしゃげた。こんな感情的に振る舞うジェイドは久しぶりで、フロイドは嬉しくなってケラケラと笑い、ようやく追いついたアズールは息を切らして到着した。
「ハァー…それで。ゲホッ。状況はどうなってますか?」
「どうもこうも~人語忘れっちゃったみたい~」
「はあ?じゃあ、人魚語で聞ければいいだろ」
「アタシぃ、人魚語しゃべれな~い」
「ふざけてないで、さっさとそこのポンコツを回収しろ!
僕はお前らと違って暇じゃないんですよ。全くっ…」
「そぉー言いながら、ベタちゃん先輩帰ったらすぐ探しにきた癖に。素直じゃないアズール」
「…!言いからさっさと行けッ!」
「はあ~い」
とは言え、いまだ岩陰に隠れる肉食魚を力づくで引っ張りだそうとすれば血を見るのは当然だ。マ、魔力おデブなアズールもいるし、最終手段は魔法でなんとかするしかない。しかし意外にも話しかけてきたのはジェイドの方だった。