第6章 素直 後編【※錆兎】
「そりゃ、性欲は…否定は…出来ないが、俺は別に、誰でもいいって訳じゃ…、」
誤解を解こうと、必死に言葉を続ける錆兎の話を聞かずに、陽華は背を向けると、こう言った。
「…だから…いいわよ。今日は助けてもらったし…、」
なんだよ…それ。助けてもらったからって…、そんな簡単なことで…、
「待ってくれっ!俺はもう、お前とは…、」
シュル…
静かに音を立てて、陽華の身体を覆っていた布地が、下へと滑り落ちる。綺麗な背中が露わになり、錆兎は思わず息を呑んだ。
白い背中に、艶めかしい曲線。川に落ちたせいか、しっとりと濡れた肌は、囲炉裏の炎に照らされて、キラキラと光を帯びていた。
錆兎の喉がゴクリと音を立てた。
……違う。こんなんじゃない。俺は陽華と、言葉で会話して…分かり合って…、もっと、心から……
……でも、目が離せない。
今すぐにでも強く抱きしめて、その肌の温もりも確かめたい。そんな衝動に刈られ、思わず錆兎は、陽華の肩を掴み、自分の方に振り向かせた。
「…なぁ、お礼だって言うなら、今日はお前と、前から…向き合って…させてくれないか?」
錆兎の発言に、陽華が眉をひそめる。
「何…言ってるの?……調子に乗らないで。助けてくれたことには感謝してるけど、別に私が頼んだわけじゃないし…。」
陽華の発言に、錆兎の胸がキリッと痛みを帯びる。
「そう……だよな。」
……俺とは、向き合って、目を合わせて…なんて、出来ない…よな。
……でもっ!
「じゃ、少しいい。今日は少しだけ、お前に触れてる時間を、多く貰ってもいいか?」
そう言うと錆兎は、陽華を後ろから優しく抱き締めた。
「ちょっ…と…、何してるの!?」
「……少しでいいから、今だけ……頼む。」
錆兎が消え入りそうな声で呟くと、陽華の動きが止まった。