第5章 素直 中編【※錆兎】
さらに血の跡を追うと、急に視界の開けた場所に出た。そこは、すぐ近くを滝が流れる崖の上だった。
その崖の手前に、誰かが立っている。
錆兎はその人物に気づき、安堵したように声をかけた。
「陽華!よかった、無事で…、」
シュッ!
油断していた錆兎の鼻先を、何かが掠める。驚く錆兎の目の前で、陽華の刀をキラリと光った。
「いきなり、何するんだっ!」
「錆兎、逃げて……、」
陽華の姿を見て、何かが可笑しい。その事に気づき、錆兎が刀に手をかけた。そこに間髪入れず、陽華の一撃が襲ってくる。
「…ちょっと、まてっ!?うぁっ!」
間一髪、抜いた刀が陽華の刀を止める。錆兎は近づいた陽華の目を、険しい顔で見つめた。
「お前、まさか…血鬼術に?……何してんだよ!!」
「本当に、ごめんなさいっ!…だから、逃げて!自分じゃ、どうしようも出来ないのよっ!」
陽華の一撃を受けながら、錆兎が問いかける。
「陽華、鬼は何処だ?」
「わからない、でも近くにいるわっ!私で油断を誘って、好機を見てるのよ。だから私のことは放って、逃げてっ!!」
「でも、逃げても何の解決にもならないだろうが!」
陽華の刀を大きく弾くと、陽華がキッと錆兎を睨みつけた。
「じゃ、殺してっ!貴方の足枷にはなりなくないのっ!」
「それこそ、出来るかっ!バカ野郎っ!」
そう言って見た陽華の顔の、その目に涙が滲んでいた。自尊心の高い陽華には、この状況は耐えられなかったのだろう。
錆兎は「くそっ!」と小さく囁き、陽華の刀を弾くと、後ろに飛んで間合いを取った。
そこに、陽華が向かってくる。
この瞬間、錆兎は覚悟を決めたように、陽華を見つめた。
恐らく、錆兎が決意したことを、陽華は許さないだろう。けど、陽華を殺す選択をするくらいなら…、