第8章 指南【※竈門炭治郎】
……俺は今夜、大好きな陽華と、結ばれる。
炭治郎は、陽華の両肩を優しく掴むと、静かに顔を近づけた。
そっと瞳を閉じた陽華の、その柔らかな唇に、炭治郎の唇が優しく触れる。
唇を離すと、炭治郎は真剣な目で、陽華を見つめた。
「陽華、好きだ。」
「うん、私も。大好きだよ、炭治郎。」
そう言って、頬を染める陽華の瞳が、炭治郎を求めるように潤む。
そのあまりの可愛さに、炭治郎の心臓は早鐘のように高鳴った。
……多分、この時。俺は、陽華の放つ色香に当てられたんだと思う。
絶対に失敗できない局面で俺は、焦り、テンパって、最高の夜になるはずだった、この夜は………、
「はぁぁぁあ、大失敗した……。」
通り沿いの茶屋の軒先で、頭を抱えて、深くため息を付く炭治郎を、隣に座って団子を咥えた善逸が、
「ま、初めてだったんだろ?…もう気にするなって。陽華ちゃんだって、気にしないって、言ってくれたんだろ?」
と、元気づける。
「陽華は優しいから、そう言ってくれたけど、俺はもう立ち直れないくらいの絶望を感じてる。」
そう言って、炭治郎がさらに落ち込む。
あの夜、瞳に映る陽華の全てが可愛くて、愛しすぎて、どうにかして、最高の夜にしたいと思った。
その想いが強すぎたのか、全てが空回りに終わり、やっとの思いで、陽華と深く繋がれたと思った瞬間、俺は不覚にも達してしまった。
陽華が可愛すぎて、持たなかった、と言うのが正解か。
その後はさらに最悪だった。挽回を期して、頼み込んだ二回戦目。
一回戦目のそのことが軽い心的外傷を引き起こしたのか、その日、俺のソレが再び元気になることはなく、そのままの気まずい状況で朝を迎えた。