第8章 次なる島は
「菜々美」
魚人島を出てすぐ、父さんが私を呼んだ。
私は船首に立つ父さんの隣に並び、暗い深海の海を眺める。
「…魚人島はどうだった。」
『うん。とっても綺麗で、楽しかった。』
「そうか。
…人魚姫やネプチューンの話を聞いただろう。
お前には少し早かったか?」
『ううん、寧ろ知れてよかった。
知らないまましらほしと友達だって言って別れて、後から知ったら絶対後悔するもの。
父さんなんでしょう?
魚人島の歴史を私に話したほうがいいって言ったの。
ありがとう。』
「グララ、そうか。ならいい。
…人魚族や魚人族はどうだ。いい奴らだろう。」
『うん。
とっても強い人たち。
私もあんな風に生きたい。
また、会いたいな…』
さっき別れたばかりなのに、もう恋しくなって、思わず視線を下に下げる。
「…菜々美、俺は海賊だ。
いつ死ぬかもわからねぇ。
だが、、、今から、ちと無責任な約束しよう。
俺は必ず、またお前を人魚姫の元へ連れて行ってやる。」
『父さん…?』
「グララ、海賊ってのは欲しいモンは力尽くでも奪うもんだ。
俺は今、お前の笑顔が欲しい。
無責任な約束だってしてやろうじゃねぇか。
何、守る気がないわけじゃねぇ。
お前が望むなら、世界を敵に回してでも連れて行こう。」
だから、いつまでもそんな顔するな。
そう言って父さんは私を大きな手で撫でた。
私は顔を上げると、心の底からの笑顔を父さんに向けた。
『ありがとう!』
左目からこぼれた涙は、寂しさからか嬉しさからか、
でも、雫が伝った場所は暖かくて全然嫌じゃなかった。