第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
そして間も無く夏油傑は高専にやってきたのだ。
突如高専に現れた夏油傑に、呪術師サイドはここにいるだけの戦力を全て集めた。
私も例外ではなく、五条先生の一歩後ろに控え、ギロリと夏油傑を睨む。すると、夏油は嬉しそうに笑った。
「やぁ、先日はどうも。体は大丈夫?」
白々しく挨拶をするやつに私は舌打ちをする。今にも飛び掛かりたい気持ちだが、今は可愛い弟そして後輩がやつの保有する呪霊に囲まれている。手出しはできない…。
私が何もできないとわかっている夏油は話を続ける。
「君が悟の新しい相棒か…。変異的でありながら優秀な能力だと聞いているよ。……けれど、なんだか少し妬いてしまうね。」
ははは、と冗談めかしく空笑いをする夏油傑。彼は空を仰いでいて、まるで私を見ていない。…馬鹿にされているんだろう。
「………。」
さらに眉間に皺を寄せる私を見て、奴はさらに煽るようにわざとらしく不思議そうな顔をした。口元に手を当て首を傾げる姿は少し五条先生を想起させる。
「おかしいな。無口な呪言師の中でも、君はお喋りだと聞いたんだけど…。まぁいいか。」
そう言って私に背を向けた夏油傑。そんな彼に私は言葉を吐き捨てた。彼にとっては呪いに近い言葉なのかもしれない。
その言葉を聞いた彼はフッと鼻で笑い、ようやく背中越しだがこちらを見た気がした。
「______私は、親友じゃなくてただの生徒よ。」
「……また会えることを祈っているよ。五条悟の"相棒"の、狗巻針。」