第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
「……で、頼み事ってなに。」
その日の夜、任務が無事に終了した私は高専の寮に先生を招き、昼間に聞いた頼み事の詳細を聞いていた。
私はベッドに腰掛け、先生は向かいのデスクに備え付けてある椅子に座っていた。少し前屈みで手を組み視線を落としている。
先生がこういう格好をするときは大抵は嫌な話…それも重要な話をするときだ。
「針には申し訳ないんだけど、囮…と言うべきなのかな。あいつを…傑を呼び出してほしいんだ。」
傑…夏油傑か。名前はさすがの私でも聞いたことがある。最悪の呪詛師。そしてかつての五条先生の相棒。
どうやらその彼がいた形跡が弟たちが向かった任務先にて見つかったらしいことを数日前に聞かされていた。
「……あー、前に棘と乙骨くんが行った任務で夏油の残穢があったって話?」
「そ。呼出が成功して針の呪力がごっそり減ればあいつは遠くにいて残穢は僕の勘違い、拒否されたら僕の予想が当たってるってこと。」
「…ふーん。」
…数秒沈黙が流れる。私が黙り込んでいると先生は短くも重たい溜息を吐いてから口を開いた。
「……どっちにしろ負担をかけると思う。やるかやらないかは針に任せる。」
深刻そうな顔をする先生。どこか悲しげな顔をしていて、もしかしたらかつての相棒が悪事を働こうとしているのは自分の勘違いかもしれない、その可能性をまだ捨てきれないのだろうか。
少し気の毒だとは思うが、まぁ十中八九夏油傑だろう。先生も本当はわかっているはずなのに…。
でも夏油傑か…。学生時代の五条先生と肩を並べて戦った人。そんな人を呼び出して私は果たして無事でいられるだろうか。
「…私が死なない保証は?」