第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
少し前。
乙骨憂太という少年が呪術高専へやってきた。弟の棘と同級生になったらしいけれど…。どうやらとんでもないものを抱えているらしい。大切な弟がいつ"それ"に巻き込まれてしまうのかわからなくてヒヤヒヤした。
気になって幾度か任務の隙間を縫っては様子を見に行っていたけれど、乙骨憂太自身に害はなさそうで、さらに同じ任務に行ってから距離が縮まり、祈本里香の力も暴走することなく私は胸を撫で下ろした。
一安心したところでようやく私は、狗巻棘の姉として彼に挨拶をすることにした。
「乙骨くん。」
廊下で何かを思い耽りながら窓越しに外を眺める乙骨くんに声をかけると、彼は少し驚いたのかビクついてから返事をする。
「ええっと、あっ。狗巻くんのお姉さん…ですか?」
「ええ。姉の針よ。弟と仲良くしてくれてるみたいで…ありがとうね。」
「そんな…。仲良くしてもらってるのは僕の方で…。」
こんな風に他愛もない会話をしていると、後ろから聞き慣れた声が耳に刺さった。
「おー、針。いいところに!!」
振り返るとかつての担任だったいけすかない教師がいて、このように彼が私を呼ぶときは決まって厄介事を持ち込んでくるので正直言って嫌な予感しかしなかった。
「…なんですか五条先生。」
私があからさまに嫌な顔をしても、五条先生は態度を変えることもなく話を続ける。
「ちょっと頼み事あんだけど、」