第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
私がそう尋ねると五条悟はきょとんとした顔をする。えーあー、と歯切れの悪い言葉を続けて困ったように頭をぽりぽりと掻くとこう言った。
「もしかして針、呪術についてあんま詳しくない?」
「興味なかったから。」
私がばっさりそう言い切ると今度は肘をついていた手で顎を抱えてなるほど…と小さく呟いた。そして五条悟は私に呪力や術式の説明をしてくれた。
どうやら呪力は負のエネルギーから生み出されるらしい。確かに小さい頃は好きなことに夢中だったし、歳を重ねるに連れて劣等感や自分の居場所を必死に求めていた気がする。
「つまり、呪術師として落ちこぼれの自分が呪力を上げてしまった?……皮肉な話ね。」
呪術師になんてなるつもりはなかったし、なりたくもなかった。どこへ行っても腫れ物扱いをされるから呪術も世の中も大っ嫌いだった。
…そんな気持ちが呪力を増やして、挙句コントロールできなくなって自らの居場所を奪っていたなんて。ぽつりと独り言のように呟いた私を五条悟は静かに見つめていた。
「…まあ、大人になるに連れて嫌なことは増えていくもんさ。仕方ない。」
「……せんせーもなんかあったの?嫌なこと。」
「………さぁ、どうだろうね。」
2人の間にしばらく沈黙が流れる。
最強と呼ばれるこの人にも呪力を高めるような、負の感情を巻き起こすような何かがあったのだろうか。それとも生まれながらにして…。
その背景は今の私には想像し難くて、この人も私と同じく悩み苦しみ生きている人間なんだなと思った。
知らないうちに俯いてしまった私を見て気を使ったのだろうか、先生は笑った。
「でもそれは、呪術師にとっては悪いことじゃない。呪力の源は負の感情、だからね。それを上手いこと扱えれば、僕には劣るだろうけど強い呪術師になれるよ〜。たぶん。」
ひらひらと両手を上げて振る先生はなんだかいつもより身近に感じた。