第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
長い夢を見た気がする。いや、これは夢じゃない。過去…私の過去だ。
____2013年。狗巻針、15歳。
「名前を呼んだだけですよ、先生。」
あの頃の私は生意気だったと思う。通常科目の授業がある日も任務の日もどんなときも手持ち無沙汰で現れて、人生に不貞腐れていた。
私のアイデンティティは勉強。とにかく勉強ができた。…ただそれだけ。家で褒められることはなかった。呪言師だけど呪言師じゃない、呪術師として落ちこぼれだった私、呪術師として生きていくしかない私に居場所なんてなかった。
いくら天才と言われても、呪術界には五条悟っていうとんでもない天才がいて私は凡人以下だった。
だから最強と謳われる五条悟のことが最初は嫌いだった。
天才と呼ばれるのは私の特権だと勘違いしていたんだ。
けれど許してほしい。まだ15歳で天才という言葉に縋り付かなければ自分の居場所を見つけられなかった私を。勉強という自分の居場所を手放さなければ、呪術が暴走して居場所を得ることができなかった私を。