第11章 繋ぎの風は捕らわれ影はひそむ
「……んだよ、…てるのか……ら…た…んどに」
次に目が覚めたときにはぼんやりとそんな声が聞こえた。誰か来ているのかな、起き上がると右足の脛が少し痛んで胸がチクリとした。
今思えば硝子さんの治療のおかげで声を上げるほどの痛みはなかったのだが、寝起きに唐突に痛みが走ったので思わず、痛っと声を上げてしまった。
その声のおかげでわたしを目覚めさせた声の主は踵を返してまたわたしが横たわっているベッドへと向いた。
「よっ!……って、まだ寝ぼけてんのか?まさか俺の顔忘れたわけじゃねえよな?」
眉間に皺を寄せて少し困った表情をする彼は紛れもなくわたしの同僚である猪野琢真だった。
「忘れるわけないじゃない、私を誰だと思ってるの。いいからさっさとその"りんご"寄こしなさい。」
いつも通り、というべきか当然のように猪野が見舞いで持ってきたフルーツがたくさん入ったカゴの中にあったりんごは私の手元へ現れる。猪野は、あっ…と小さく驚いてはぁ…とため息をつきながら呆れた。
「相変わらずえげつねえ能力してんのな。ほら、切ってやるからもう一回寄越せ。」
「いいわよ、そのまんま齧るから。」
そう言って熟れて食べごろのりんごを皮のついたまま齧るとシャクリと心地のいい音がした。唇の端から汁が漏れて親指で拭き取る。
そんな私を見て猪野は再びため息をついた。それもさっきより盛大に。
「…ったく、病み上がりのくせに。そんなんじゃ五条サンにいつまで経っても女として見てもらえねえぞ〜。」
「………あ。」