第11章 繋ぎの風は捕らわれ影はひそむ
「単刀直入に言うわ、帰ってくれないかしら。向こうの仲間も連れて。」
そして私は人差し指を立てて帳が降りている向こう側を指さした。
呪霊はそちらの方向を向いてまた私はがいる方向に向き直して、それからうーんとしばらく顎に手を当てて考え込むと、顎から手を離してまるで降参しているかのように両手を上げた。
「わかった、帰るよ。」
「……。」
思ったよりあっさりしすぎて拡張術式を打つか悩む。条件を付け足す?…いや、断られたら本末転倒だ。私には勝ち目がないからとりあえず確実に今はここから去ってもらおう。
少し悩んだが、私は術式を打つことにした。
「…約束破らないでよね。」
「だいじょーぶ、約束は守るよ。」
「……破ったらどうする?」
「うーん、そうだな……俺たちの目的教えてあげる。」
…目的、帰ってもらうよりもむしろそちらの方が有益な情報なのだが…。これ以上高望みするわけにもいかないだろう。私は妥協することにして術式発動の印を組んだ。
「言質、貰ったわよ。」
「うん?」
「……拡張術式、"我幻悉糜(がげんしつび)"」
直後やつは不思議そうに首をかしげたが、私が術を発動させ、自らの体に先程の会話の文字列が刻まれると興奮気味に笑った。
「へぇ〜!すごい、体に文字が入るんだ。不思議な感覚!俺の意思とはまた別に魂が"帰れ"って言ってるよ!!」
腕に刻まれていく文字を隅々まで見てやつはふーんと数秒眺めると上げていた腕をようやく下ろした。
「じゃあ俺帰るね。計画バレたら怒られるし。」
岩の向こうで私に背を向けて歩き出すやつを見て私はほっと胸を撫で下ろす。…あっさり帰るなんて、本当に何が目的だったのだろうか。
私は纏っていたストールに視線を落とす。
「ごめんね、痛い思いさせて。」
と催涙歌に謝った、その瞬間だった。背後から突如禍々しい気配を感じとる。なんとかその魔の手から逃れるために地面を蹴り駆け出そうとしたが少し遅かったようだ。
「……っ…くっ……」
足から膝にかけての脛部分の骨にかつてない痛みを感じる。そう、まるで骨がねじれたような痛みだった。
「あれ?避けられちゃった?」
そこには先程の私に背を向けて歩いていたはずの、奴がいた。