第10章 愛に及んで屋をつくり、鳥はなく
私はスタスタと家の中を歩き6帖ほどの空き部屋に入る。そして…。
「"呼出"私のドレッサー、私の衣装ケース。あとそれから…クローゼットにかかっている服と…」
次々と目の前に現れるかつて私の部屋にあった物たち。引っ越しの時にはなんて便利な呪術なのだろうと日常生活において無駄に器用貧乏な自分の能力に呆れつつも感謝する。
背中と額にじんわりと汗が滲むのがわかる。私は湿った額を手のひらで少し押さえつけてふぅ、と疲労のため息を吐く。
予め指定したものか予定通り全てなくなったのかを先生に電話をかけて確認をしなくては。
先生に電話をかけると、問題ないよ〜、とのことだったので部屋を出て次は家の近くにある新たにレンタルした倉庫の元へと足を運ぶ。
………その前に、
「"五条悟"」
「…おっ、おつかれ〜。ど?呪力足りそう?」
私の目の前に呼び出された先生は特に驚くこともなく気さくに片手を上げてこちらに挨拶をした。
「…うーん、後は呪具だけなんだけど、もしかしたら倒れるかも。なにせ2000本、一気に呼び出さないといけないからね。」
私が顎に手を当てて少し悩む素振りをすると、背中にふわりと温かい感触が渡る。先生が後ろから抱きついているようだ。
少しだけ心臓がピクリと跳ね上がったがバレないように抑え込む。
「大丈夫だよ、倒れたら僕が運んであげる。お姫様抱っこでね。」
お姫様抱っこ、という言葉に思わず反応する。そしてそれをされている自分を想像したら恥ずかしさが込み上げてきて後ろからハグしている先生を無理矢理引き剥がした。
「…ふっ、普通におんぶでいいから!というか先生なら私のことかつげるでしょ!」
振り返り真っ赤になりながら後ろにいた先生を指差して大声をあげた私のその腕を、先生は突然引っ張ったので私は驚いたがさらに唇を塞がれてしまってさらに慌ててしまう。
唇が離れると、戸惑って赤い顔のまま棒立ちする私に先生は言った。
「はい、お仕置き。」
「あ、」
なんのことか思い出した私は赤い顔をもっと火照らせて俯く。そして小さな声で視線を逸らしながら呟く。
「………さ、とる。」
「うん、よくできました。」