第10章 愛に及んで屋をつくり、鳥はなく
「…こっちには向ける?…針の寝起きの顔見たいな。」
私を捕まえていた先生の腕が少し緩まる。振り返れということだろうが…。
「えっ……だ、だめ…寝起きの顔可愛くないし…。」
寝起きの自分の顔を鏡で見たことあるがそれは酷いものだった。そんなものを先生に見せられるはずもなく私は先生に背を向けたまま俯いて手のひらで自らの顔を覆う。
「え〜でも彼氏の特権だよ?」
先生も譲るつもりはないらしく私の手のひらを掴んで顔から引き離した。そしてその手を掴んだまま覆い被さるように上から私を見下ろす。
「……ほら、やっぱり可愛い。」
私のおでこに軽く口付けて優しく微笑む先生。瞳に朝日が差し込んでまるで透き通った海のようにキラキラと光っている。…先生は寝起きでもかっこいいななんて見惚れていると背中に手を回された。
「本当はもっとイチャイチャしたいんだけど〜…よいしょっと。」
先生は私の上半身を起こすとそのまま私に抱きつく。私の肩に顎を乗せ、拗ねたように口を尖らせた先生は会話を続けた。
「交流会前でちょっと忙しいんだよね〜。針は今日休み?」
「休みだけど、何かあるの?」
「ちょうどよかった〜。じゃあ僕の代わりにしといてくれない?」
嬉しそうにパンと手を叩く先生。…嫌な予感がする。なんですか?と問いかけると先生は私から離れて今度は手を握る。そしてにこりと満面の笑みを浮かべて言ったのだ。
「僕と一緒に住む準備♡」
だるい体に、さらに重さが加わった気がした。唐突にして突然。予想外。この男は一体なんなんだろうか。…いや、一緒に住むこと自体には不満はない。ただ、私一人に準備諸共をさせるつもりなのだろうか。
眉間に皺を寄せる私に先生は笑みを崩すことなく続ける。
「いや〜、前から思ってたんだよね。呼び出されたあとにわざわざ家帰るのめんどくさいな〜って。素早く帰宅できる上に可愛い彼女が家で待っていて、しかも即寝れるなんて最高じゃない?」
イラッ
頭の中で何かが切れる。
そして部屋の中でパンッと何かを叩いた鋭い音が響いた。
「人のこと便利屋扱いすんじゃないわよ!!!!!!」