第6章 棣をめでるならば鄂之さきまで情をかけるべし
ああ、私の弟はどうしてこんなにも可愛いのかしら。棘に会えただけでも高専に来た意味はあったわね。むしろ五条先生に放置されてラッキーみたいな?
「針、そろそろ棘のこと離してやれよ。可愛い弟が窒息死しちまうぞ。」
久々の弟を堪能する中でまた1人久方の声に私はやっと周りに目が行った。声の元へ振り返るとそこには禪院真希がいた。
「ああ、ごめんね。あまりにも可愛すぎて強く抱きしめすぎちゃったわ。」
彼女の声で我に返った私は弟を抱きしめていた手を緩める。解放された棘はおかか、と呟いてすみやかに私から離れた。
少しだけ心寂しい気もしたが私は同じく久しぶりに再開した後輩に挨拶をする。
「真希ちゃんも久しぶりね、ハグしとく?」
「……いや、いい。」
あからさまに嫌そうな顔をする真希。その後ろには伏黒恵が控えていて、うス…と小さく私に会釈した。
そしてもう1人、フサフサと芝生を踏みしめる大きな影が私に近づく。
「針、こいつ今年の1年。俺がしこたま投げ飛ばしてやったから受け身はバッチリだぜ。」
親指を立ててにっかりと笑う彼はパンダ。あまりにも見た目通りの名前すぎて他に名前はなかったのかと毎回思うが本人も別に気にしていないみたいなので良しとしている。
そして、パンダがこいつと指差している方向へ目をやるとそこには茶髪の女の子がいた。
「この子がもう1人の1年?ふーん…可愛いけど……棘には手出しちゃダメよ。」
私が真剣に語るも、それとは正反対に茶髪の彼女はぽっかり口を開けて間抜けな顔をした。
「…………………へ?」
そんな彼女に真希が近づいてこっそりと耳打ちをする。
「まあ洗礼みたいなもんだ。気にすんな。」
内容は全く聞き取れなかったが、真希の言葉を聞いた彼女は、なるほど…と妙に納得していた。何を話していたのかしら。まだ高校生なんだから不純異性交遊なんて姉さん認めないんだから。