第6章 棣をめでるならば鄂之さきまで情をかけるべし
「今度の交流会こいつも出るんだ。針、ちょっと相手してやってくれよ。」
真希ちゃんは何事もなかったかのようにまたこちらへ向くと、親指で1年生の彼女を指さした。今年は1年生も交流会に出るのね。まあ伏黒くんもいるし一応なんとかなりそうではあるけれど…。1人厄介者がいるわね。
「……東堂くん対策、ね。」
「そういうこった。ちょっと相手してやってくれ。」
そして気がつけばパンダや真希ちゃん、棘全員が私と彼女から距離を取り、その1年生と私が十分戦えるようなスペースが作られた。
彼女はごくりと唾液を飲み込みこちらを虎視眈々と見つめている。もう準備バッチリって感じね。私も同じく身構える。
すると、遠くに行ったはずの真希ちゃんが再びこちらに歩み寄ってきた。なにかしら?
「言い忘れてた。そいつ、釘崎野薔薇っつうんだよ。」
真希ちゃんから告げられたのは彼女のフルネームだった。フルネームを私に伝えるという行為がどれほど重要なことなのか真希ちゃんが知らないはずはない。
意地悪な彼女に思わずクスリと笑みが溢れる。
「……あら、真希ちゃん意外と意地悪なのね。」
「後輩思いって言えよ。」
んじゃ、頑張れよ野薔薇。とそれだけ残して彼女はまた同じ場所へと戻っていった。
「さて、準備ができたみたいだしそろそろ始めましょうか。よろしくね、野薔薇ちゃん。」
普段なら礼儀などあまり気にしないはずの真希ちゃんがわざわざ私に名前を伝える為だけに足を運んだことが気になったのか、野薔薇ちゃんは腑に落ちない顔でペコリと軽い会釈をした。
「え、あ…はい。お願いします。」