第23章 生を授かりし一なるモノは九分の死を受ける
「……やれやれ、説得するのに随分と時間がかかったよ。」
「夏油、さん……であってますよね?」
「ああ、最近ずっと狐だったせいか、まさか人の身体に違和感を覚えるなんてね。」
姿は確かに悠仁くんだけれど、落ち着いた物腰。飄々とした話し方で夏油さんだとすぐにわかった。
悠仁くんの身体に移った夏油さんは、拳を握ったり緩めたりで、彼の言う通り人の体と自分の意識を慣らそうとしている様子だった。
「説得ってことはやっぱり、夏油さんが羂索から体を取り戻すのにも一悶着あるってことですね…。」
「そういうことになるね。ただ私はその羂索とやらを知らないからどの程度の争いになるかはわからないけれど…。まぁ元は私の体だしね。アドバンテージってことでなんとかなるんじゃない?」
「そんなテキトーな…。」
「ほら、そんなことよりさっさと"彼"を呼び出してあげないと針の呪力が切れちゃうよ。」
「…そうですね。」
…というか、しれっと言ってるけどそれ夏油さんを呼び出している上に悠仁くんも呼び出すのよね…?二重での呼出なんて私の呪力秒で枯渇してしまいそうだけれど。
まぁ今回は魂が2つある肉体を生み出すために二重の呼出をしているだけであって、本番はないから呪力消費は抑えられるはず…。
なんとかこれを成功させて、伏黒くんの魂を呼び戻して悠仁くんのときみたいに体の所有権を取り返してもらわないと…。
きっと1人のままじゃ、宿儺に対抗できる強靭な精神は生まれない。
だから私も、できることはやらないとね。