第23章 生を授かりし一なるモノは九分の死を受ける
「おまたせ。」
30分後、時間通りに悠仁くんは来た。
少し駆け足で階段を降りると、真っ直ぐこちらに向かってきて、よいしょ、と私の座っているところからちょうど1人分の隙間を空けてソファに腰掛ける。
それが悟に気遣っているのが垣間見えて少しだけふふっと笑ってしまった。
「で、どったの?」
まだ呼び出された理由を知らない悠仁くんは素直な疑問をぶつけてきた。
彼の質問に答えるべく、私は膝を悠仁くんに向けて彼の顔をじっと見つめる。
澄んだ瞳…服の裾から見える体の傷跡。少し前まではただの青年だったのに。
…こんな無茶頼んで本当にごめんね。
と、申し訳ない気持ちもありつつ私は悠仁くんに要件を話す。
「あなたの体の中に、もう一度…宿儺とは別の魂を入れたい。」
______そう、夏油傑の。
今朝、夏油さんと私が伏黒くんの魂を呼び出すことについての話し合いを進めた。
結論、いきなり伏黒くんを呼出するのではなく予行練習が必要という話になった。
器になり得る身体と器が必要な魂。同じ条件がここに揃っているのだから、と。
つまり、夏油傑の魂を虎杖悠仁の体に呼出す。
「きっと悠仁くんへの負担がかなり大きくなると思う…だから、断ってくれても…、」
と、申し訳ない気持ちでいっぱいの、そんな私の言葉を最後まで聞くことはなく悠仁くん返事をした。
「いいよ。」
無茶な要求にも関わらず、悠仁くんは一寸の迷いもなかった。まだ誰の魂を入れるとも言っていないのに…。
「伏黒を助けるために必要なことなんでしょ。じゃあ、やるよ。」
「……………そっか。それじゃ、今から説明するわね、今からあなたの中に入る魂がどんな人だったのか。」
______。
私は、彼が呪詛師であったことも、なぜ呪詛師になったのかも、去年の12月24日に起きたことも全て話した。
けれど私の説明を聞いた悠仁くんは、その中のどれにも反応はせず
「五条先生の、親友…。」
と、それだけを呟いた。
かつての特級術師であることも最悪の呪詛師って呼ばれてたことも伝えたんだけどね。
それでも宿儺を抑え込んだ実績があるからなのか、悠仁くんは拳をギュッと握って
「よし、いつでもいいよ。」
と言った。
「……領域展開、言言坐卧。」