第23章 生を授かりし一なるモノは九分の死を受ける
「悠仁くん、ちょっといい?」
夏油さんと話した晩。
夕方に行われた作戦会議後に、ロビーのソファにいた悠仁くんに声をかけた。
俯いて何か考え事をしていた悠仁くんは顔を上げて、
「なんかあった?」
と何もなかったように口元に笑顔を浮かべた。
私は少しだけ悠仁くんに近づいて、周りの話し声にかき消されるくらいの声で
「…30分後、あの地下室で待ってる。」
と伝えた。
「……………わかった。」
そんな私の様子を見て、只事ではないことを察してくれた悠仁くんもまた静かに頷いた。
後ほど、彼にするお願い事のことを思うと胸がギュッと締め付けられる。
「…………無理しないでね。」
断ってもいいからね、とそんな意味も込めながらそう言って、私は缶コーヒーを呼び出して悠仁くんの手元に投げた。
「わっ…とと。」
少し慌てながらも缶コーヒーを綺麗に受け取る悠仁くん。
少しだけ冷える外の気温に合わせて暖かくした室内に、冷えた缶コーヒーは水滴がじわじわと湧いた。
くるくるとその缶コーヒーを手で持て余している悠仁くんは、それを見つめるように視線を落とす。
悠仁くんの手のひらに、水滴が一つまた一つと繋がって大きくなった雫がぽたり、と彼の手に落ちる。
そしてその雫を拭き取ることもせず、悠仁くんは低い声で呟いた。
「………伏黒にさ、言われたんだ、"まずは俺を助けろ"って。…まさかほんとに助けることになるなんて思ってなかったけど。」
結露を気にすることなく缶コーヒーを握る手の力を強める悠仁くんは、またこちらに顔をあげ直して困ったように笑った。
「だから、ちょっと無理してでもあいつのこと助けてやんなきゃ。」