第22章 烏は陽から兎は月から怱怱と逃げ出すほどの
「……………あーあ。」
私の話を静かに聞いてくれていた夏油さんは口を尖らせた。
「あの、私何か変なこと言いました…?」
「変なことっていうか、死人に惚気話されてもねぇ。」
「そ、そんなつもりじゃ…!!」
悟がちゃんと親になれますよって伝えたかっただけなのに!!
私が慌てて口をぱくぱくさせていると、夏油さんは鼻で息を鳴らして少し寂しそうに笑った。
「……随分と遠くに行ってしまったな。てっきり私と一緒に地獄に落ちると思っていたけれど…"またな"、なんて夢のまた夢じゃないか。」
そう言って、遠くを見つめる夏油さん。
"またな"なんて夢のまた夢…。そんなことないじゃない、だって……
「別に会えばいいじゃないですか。……悟の封印が解けたら会えますよ。残念ながら狐の姿ですが。」
今こうして私とやりとりしているんだから、悟とも同じように話せばいいだけなのに。
けれど、そんな私の思惑が通ることはなく夏油さんは静かに首を振った。
「…なんでですか。」
1年前の12月24日。夏油傑という親友を失った五条悟を目の前にしたからこそ、今ここで2人が再会しないことに私は少しだけ泣きそうになって、声を震わせながら言葉を漏らした。
「…………あの日、私は死んだ。君も言っただろう、死人に口はない。」
「……でも、私とは話してくれるじゃないですか。」
「私を死人にしたのは悟なんだよ。悟本人が私を口無しにしたんだ、話すことはもうない。」
「……そんなの、だって…。」
"信頼してたんだ。互いに。"
"絶対に棘たちを殺さないと、信頼していた。"
"親友なんだ、唯一の。"
五条悟が、夏油傑を殺したあとにポツリポツリと彼が呟いた言葉。布団越しに聞いた、あの日の先生の寂しそうな声。
今だからわかるけど、あれはきっと悟の本心。孤独な悟の心をずっと埋めてきたのは夏油傑なんだから…だから……
「………針。」