第22章 烏は陽から兎は月から怱怱と逃げ出すほどの
「"術式反転"、高速道路。」
私が呪言を唱えると、ふわりと体が宙に浮いた。なるべく呪力をたっぷり込めて、高く飛んだ。11月の日差しが近づいて、私の肌を照らす。
催涙雨をビルの屋上にある建造物に引っ掛けては飛び移り、谷間を駆ける。風は少し冷たく涼しくて、こんなときなのに空気がとても心地良く感じた。
「はは、針さん思ったより早いですね。」
私の先を進む乙骨くんがこちらに振り返りそう言う。少し距離が離れているのと、乙骨くんもまたこの感覚に衝動が駆られているのか、普段は聞かないような彼の大きな声を聞いた。
けれど、そんな会話は長く続くことはなくあっという間に乙骨くんは離れていってしまう。特級術師と一級術師だ、そんなものでしょう。
私が高専にたどり着いたのは、乙骨くんがたどり着いた5分後だった。
息を整えながら高専内に入ると、
「待ってました。」
そう言って、何事もなかったかのようにひらひらと手を振る乙骨くんがいた。…なんで疲れていないのかしら。
まだ私の息は整わず、肩で息をする中
「お疲れ様。」
と私を労う声が聞こえた。
…硝子さんだ。タバコ、吸ってたっけ。
「疲れてるところ悪いけど、来栖華を呼び出してもらえるかな。」
そう言って硝子さんは部屋の中にある誰もいない診療台をポンポンと叩いた。
「ええ、大丈夫ですよ。呪力はまだあるので。」
……なんて、本当は術式反転の多用でぜーんぜん残っていないけれど。来栖さんの無事が最優先だからね。
できるだけ、呪力の糸を細く細く。相手にも気づかれないくらい細かな呪力の糸を相手に結びつけることを想像して。
「"呼出"、来栖華。」
小さく、私は呟いた。