第22章 烏は陽から兎は月から怱怱と逃げ出すほどの
「宿儺に体を取られちまった。」
「宿儺にって…そんなこと…!?………いや、呪いの王だもんね。不可能なことがある方が珍しいか…。」
そして再び流れる沈黙。どうしたものかと思考を回していると、道路の向こう側からコンクリートを鳴らす足音が聞こえた。
そちらを向くと、乙骨くんと、怪我まみれの少女を抱えている真希ちゃんがいた。字名に相応しい、淡い金髪にふわふわの白いニットを纏う彼女はまさに"天使"に見えた。
……その真っ白なニットが血に塗れて赤く染まっていることを除いて。
「…彼女が来栖さんね。乙骨くん、応急処置は?」
「完了しました。…彼のおかげで思ったよりも軽傷でよかった。」
そう言って乙骨くんは高速道路の壊れた壁から下道を覗く。同じように私も下を見ると、そこには見慣れない青年がいた。
「甘井………?」
私の後ろから声がした。振り返ると、悠仁くんが同じように彼を見ながら目を見開いていた。知り合いなのかしら。
今のこの場にいるのは乙骨くん、真希ちゃん、悠仁くん、甘井と呼ばれていた彼と、あとは私か……。
「硝子さんの元に………高専に行きましょう。来栖さんと下にいるの彼のボディガードは真希ちゃんと悠仁くんで。私と乙骨くんは先に向かうわ。着き次第来栖さんから順番に"呼出"する。」
「わかった。」
「わかりました。」
各々がそれぞれ返答をする。乙骨くんは特級だけど完全に単独派だしひとまずこの場を取りまとめるために簡単に指示を出して解散を命じた。
…ああそうだそれともう一つ、
「…乙骨くんは無理に私に合わせなくても先に行ってもいいからね。」
「……すみません。」