第22章 烏は陽から兎は月から怱怱と逃げ出すほどの
「…………なに、これ。」
11月16日。乙骨くんと共に東京第1結界に到着。悠仁くんたちと合流…する予定だった。
のに、
目の前に広がる景色は、まるで氷瀑のような都会のビルを覆うほど巨大な氷壁。
埋もれているのは………
「真希さん!!!!!!」
彼女を見つけるや否や、すぐにその刀身で氷を打ち割り助け出す乙骨くん。そして乙骨くんが入れた亀裂からバキバキと氷が崩壊していく。
異様な光景。これが人の成せる技なのか…。ここで一体何があったの…。
特にすぐそこにあった高速道路が大きく氷で覆われており、私は全容を見るべくすぐさま催涙雨を使って飛び乗ると、そこには地面に座り込む悠仁くんがいた。
「悠仁くん…?」
私の声に、悠仁くんはハッ!!と振り返り咄嗟に叫んだ。
「……針さん!!!!来栖…!!来栖を………!!!」
来栖!?来栖って来栖華!?ここにいるの?
悠仁くんがわざわざ私に言うってことは呼び出す必要があるってことね…!.
「"呼出"来栖華!.!」
間髪入れずに私は悠仁くんから告げられた彼女の名前を呼ぶ。
…しかし、それが受け入れられることはなく、頭が割れるような衝撃が走る。
「っ…!!!!!!ダメ、拒否された…!!」
立ち上がった悠仁くんは痛む頭を押さえる私の元に近づき、無茶言ってごめんと謝った。
「敵じゃないんだけど、"天使"が得体の知れない呪力だから拒否したかもしれねぇ。」
「天使……。」
「俺の宿儺みたいに来栖の中に"天使"が入ってるからそっちが拒否してるんだと思う。」
「じゃあ来栖さん本人は今どうしているの…?」
「わかんねぇ…。ただ天使が反応したってことは無事だとは思うけど…。」
そこまで言葉を紡ぐと、悠仁くんは口を噤んだ。まだ何か言いたいことが…?
悠仁くんが口を開くまで待っていると、数秒してからようやく彼は消えそうな声を発した。
「ただ…伏黒が、」
「伏黒くん…?」
たしかにここにはいないけれど…。
俯いたまま黙り込む悠仁くんを見て伏黒くんの身に何かあったことは一目瞭然だけれど…。
まさか死んだ…?いや、死体が見つからない…。…どうしたっていうの、
私があれこれと思考を回していると、それを打ち切るように悠仁くんは信じ難い事実を述べた。
「宿儺に体を取られちまった。」