第21章 山のうえには常に蛇がひそみ勢いづいている
それから乙骨くんは東京コロニーの散策に向かい、席を外した。
「……はぁぁぁぁ。」
わかってはいたけど、乙骨くんの説得は厳しそうかしら。…というか他にも反対する人は出てくるでしょうね。私自身もまだ呼び出した夏油傑の魂が本物かどうかわからないし。
…ただ、お腹の子の術式が関わっているなら間違いなく本物なんだろうな。
「……これからどうしようかしら。」
今、11月13日。死滅回遊は19日以内に得点の変動がなければペナルティが課せられる。
…術式剥奪。硝子さんも言っていたけど、脳に作用するからつまりは死、というペナルティなんだけど。
…誰かに甘えるわけにもいかないし、何かしらのアクションを起こす必要はありそうね。…‥その前に。
「"呼出"黒狐。」
夏油傑の抜け殻を回収する。中身のないそれは、床に力無くヘナヘナと横たわった。ただのぬいぐるみだったりだと、もしかしたら器になり得ないからね。…夜蛾学長がいなくなった今、貴重な呪骸の器だから大切に扱わないとね。
「……………。」
目を閉じたまま床に臥す狐をなんとなく見つめる。
え、呼び出す?もう一回。
特に呼び出す必要もなければ呼び出す必要もないんだけど。
いろいろ聞きたいこともあるにはあるし…お昼のが偶然かもしれないからね。
「"呼出"、夏油傑。」
私が呪言を唱えると、横たわっていた狐はゆっくりと目を開ける。そしてチラリと黒目がこちらを捉えた。
「……あぁ、また君か。」
どうやら、呼出は偶然ではないみたい。