第20章 言葉はただそこに坐り臥すと少女は言う
想定外の出来事に私もまた深々と溜息を漏らす。
…死なないようにお守り程度のバフでもかけてあげましょうか。
「秤くん。」
「なんだよ、まだなんか…、」
声をかけられた秤くんはだるそうに背中を向けたままこちらを振り向く。しかし、そんな怪訝な表情も次の私の一言で明るくなる。
「残りの呪力、全部あげる。」
「…!!ははっ、いいねぇ。狗巻姉も"熱"あんじゃねぇか。」
「……"当たりを出し続けること"。」
「破ったら高専で大人しく座学受けてやるよ。」
「…それ、個人的には破ってほしいけど…。ま、いいわ。言質、取ったわよ。
拡張術式"我幻悉糜"。」
私がそう言うと、するすると文字が秤くんの中に入っていった。ああもう無理、呪力がすっからかん。最後にミジンコほど残った呪力でベンチを呼び出して腰掛ける。
これが、我幻悉糜のもう一つの能力。能力というか裏技みたいなものだけど。
我幻悉糜で言質を取り"縛り"を結ぶと、できる限りその約束が執行されるよう最善の状況が生み出される。
秤くんの場合は運要素が強いパチンコの術式だから、なるべく勝ち続ける何かしらの因果が形成される………かもしれない。
正直、私もあの術式が何を基準に当たり外れを抽選しているのかわからないから我幻悉糜がどこまで影響しているのかもわからないけど。
ま、お守り程度って感じかしらね。
秤くん曰く調子が良くなるみたいだけど…プラシーボ効果もあるんじゃない?って個人的に思ったり。
仕切り直して戦う2人を見て、また一つ盛大なため息が漏れる。そして、頭を抱えるそんな私の背後から声がした。
「秤が来たのか。」
「パンダ!!…………って、ちっさ!?!!?!?」
振り返ると目線の先には誰もいなくて、声がする方向…すなわち下に首を傾けるとそこに赤ちゃんサイズのパンダがいた。
テディベアサイズのパンダが二足歩行してる…。