第20章 言葉はただそこに坐り臥すと少女は言う
「領域展開、言言坐臥(ゆうゆうざが)。」
地面に打ち込んだ霧雨は、空間をイメージしやすくするためのものだ。円形に打ち込むことでドーム状を生成しやすくした。
イメージ通り、領域はドーム状のような空間になった。
「……なんだ、これ。」
私の領域を見て鹿紫雲は想像を超える景色に唖然とした。
私の領域には、何もない。床も壁も含めて何から何までただ真っ白な空間だ。
「ま、関係ねぇ。」
この不思議な空間に戸惑うも、すぐに気を取り直して目の前に立つ私を見据える鹿紫雲。領域展開したせいで中断された電気を再びチリチリと散らし始めた。
そして、必中とまではいかないが速さを備えた攻撃をこちらに仕掛ける。私を狩るには十分な速さだ。これまでの戦闘で鹿紫雲もまたそれを理解していたのだろう。
但しそれは領域展開するまでの話。
「"臥せ"。」
「!!?!!?!?!?」
領域の中では、その攻撃は届かない。私の言葉と共に、鹿紫雲は文字通り地面にひれ臥した。それと同時に真っ白な壁に「臥せ。」と黒い文字が刻まれる。言葉の重みを味合わせるように領域内に私の発した言葉が浮かび上がるのだ。
"不思議なことにその空間では私の呪言は一般的なそれと同じになった"
狗巻家で母からもらった書物に書いてあった。ここでは、私は"ただの"呪言師になる。
ここでは私の言葉全てに呪力がぶつかられる。迂闊に何かを発することはできない。
ひれ伏す鹿紫雲に近づき最低限の会話をする。
「100点を消費して、ポイント譲渡可能のルールを追加して。」
「…代わりに宿儺と戦わせろ。」
「………。」
……宿儺、つまりは悠仁くんね。
彼がなぜ宿儺に固執しているかはわからないけど…。
代わりに可愛い後輩を差し出す必要がある…。
______。
"…乙骨くんに力を使わせるための犠牲なら何をしたってよかったわけ…?"
"……あぁ、仕方ないと思った。"
目的を達成するための犠牲。
…1年前の12月を思い出す。夏油傑を倒すために棘たちを犠牲にした悟のことを。
悟を復活させ死滅回遊を終わらせるための、犠牲。
…私も最低かもね。ごめん。
「……………っわかった。」
仕方ないと、思った。