第19章 春に風をふかせしそらは、秋に雨をもたらす
それからタイミングを図ったように、パンダが棘を連れて客間へ戻ってきた。上半身が包帯に巻かれ、痛々しい姿をしているはずなのに棘は私とお母さんの顔を見て頷きながらニコニコと笑った。
「しゃけしゃけ。」
よかったよかった、と棘に笑われて少し照れ臭くなった私は
「…なによ。」
と泣き腫らした顔を隠すようにそっぽを向いた。
そんな私たちを見て、お母さんもまたニコニコと笑う。
「お昼ご飯、食べて行くでしょ?人数が多いからおにぎりでも握りましょうか。パンダさんは人間の食べ物でも食べれるのかしら?」
嬉しそうに袖をまくりながらお母さんがそう聞くと、パンダは目を輝かせながら親指を立てた。
よかった、と言うとお母さんは客間から立ち去ろうとする。部屋を出る直前、振り返って
「棘、針はツナマヨ食べるでしょ?」
と聞いた。
昔はよくお母さんの作ってくれたおにぎり食べてたっけな、2人ともツナマヨばっかり食べて取り合いしたから中身教えてくれなくなったんだっけ。
あ、でも今は…。
言っていいものかと口をもごもごさせるが、せっかく親子として絆を深めたばかりなのに遠慮するのも嫌だと思って、私は初めて我儘をお母さんに伝えてみた。
「お母さん私梅干しも…食べたい、かも。」
「あら、珍しい。どうしたの。」
「え、っと…。」
思わず言葉を詰まらせるがお母さんは私が言い出すのを催促することはなく言葉を待ち続けてくれる。…黙っててもしょうがないか。棘やパンダにも伝えるつもりではいたし…。
ふぅ…と大きく息を吸って、お母さんの問いに答えた。
「いるんだよね、お腹の中に赤ちゃん。」