第19章 春に風をふかせしそらは、秋に雨をもたらす
私は、愛情に気がつかなかっただけだ。
悟から明確な愛を受け取って、愛情がなんなのか知り、今ようやく母の愛に気がついた。
「……っ……うぅ…。」
「…針!?どうしたの!?」
10月31日から地獄のような数日間を思い出す。与えられた愛と失った愛、それから今改めて受け取った愛情。全てが複雑に絡み合って感情がぐちゃぐちゃになった。
棘や悟から愛されていてもずっと自分を許せなかったのは、母に認められたくて、母に愛されたかったからだ。"母"というものがそれだけ自分の中で大きな存在だったんだ。
そしてそんな"母"に、これから私がなるんだ。
母は私が泣きだすと慌てて立ち上がって、泣きじゃくる私の背中を摩る。背中から感じる手のひらの温もり。割れ物に触れるような、優しい手だった。
愛のある、手。
「…っ私、私…知らなかった。愛情が何か。知らなかった…っ…!!知らないフリをしていたの…毎日作ってくれていたご飯も、買ってくれた教材も、全部、間違いなく愛情だったのに。目を背けてた、怖かった、"拒否"されるのが…拒否する自分が…、だから、だから。」
上手く言葉がまとまらない。
「針、
……お母さんのこと、呼んで。」
嗚咽しながら必死に言葉を紡ぐ私を、母は優しく抱きしめた。
「……っ、"おかあさん"…!!」
「…ありがとう、」
母の体の中に、私の呪力が流れ込む。術師じゃない母に、流れ込む呪力はわからないはずだけどそれでも母は、私の言葉を噛み締めるように私を抱きながら瞳を閉じた。
「…ごめんなさい、お母さんあの時はびっくりしちゃったの。呪術が何か知らなかったの、無知なお母さんでごめんね。
…大好きよ、大好き。世界中で誰よりも大切な、私の子供たち。何があっても、お母さんはずっとあなたたちの味方だから。」