第19章 春に風をふかせしそらは、秋に雨をもたらす
「棘!!!…っ棘。」
「すじこ………。」
呪力が溢れんばかりに名前を呼び続ける私を見て、棘は少し困った顔をした。どこか居心地の悪い家で、棘の顔を見て安心したのだ。
いつだって、この家における私の心の拠り所は棘だった。
目を覚ました棘を見て、緊張が解けたのと弟の無事を確認して私は涙が溢れた。
ずっと、不安だった。
悟がいなくなって先が見えなくて、背を向け続けた母と再会して、私の心はずっと張り詰めていたから。
泣きじゃくる私を見て、棘は少しだけオロオロ狼狽えたけど片方の腕で私を抱き寄せた。
いつかの棘を抱きしめた私のように、棘もまた私を抱きしめてくれた。
けれどその腕はすぐに解けてしまう。
「……おかか。」
首を横に振る棘。
"今のままじゃだめだ"
と、聞こえた。
棘の言う、"今"というのは私と母の関係のことだろう。
母が所謂"毒親"というものでもなく、私たちに愛情があることはとっくに理解している。
だからこそ、このような態度をとってしまう私自身にも罪悪感があった。その罪悪感と過去に母から言われた"トラウマ"から逃げ続けてきた。向き合うと、胸が苦しくなるから。
そして棘を心の拠り所と都合のいい呼び方をして、ずっと依存していたんだ。