第19章 春に風をふかせしそらは、秋に雨をもたらす
「そう…。」
私はそれだけ返事をすると、まだ温かいお茶は湯気を立てているうちに立ち上がり棘の元へ向かおうとする。出されたお茶を一滴も飲むことはしなかった。
母を背に立ち去ろうとすると後ろから声が聞こえた。独り言のような、か細い母の声だった。
「…危険に晒される必要なんて、なかったのに。」
「……。お母さんにはわかんないよ。」
もう"お母さん"と呼んでも私の前に現れなくなった母がどんな表情をしていたのか、私にはわからないまま、襖を閉じた。
棘の元へ向かうと、そこには横たわり眠っている棘の姿があった。
眠る弟の手を握ろうと、掛け布団の中で手を探るが見つからない。
「………うそ。」
慌てて私は反対側に周りもう片方の腕を確認した。…失くなったのは片腕だけだったようで少しだけ胸を撫で下ろす。
それでも痛々しい姿になってしまった弟の姿に心臓が痛んだ。
眠る弟の右手を優しく包み込むように握り、
「棘。」
と名前を呼ぶ。
私の呪力が棘の体に滲み、そして溶けていく。
そして、握っていた手のひらが、私の手のひらを握り返した。
ゆっくりと、棘の瞼が開く。