第19章 春に風をふかせしそらは、秋に雨をもたらす
それから呪術高専に入学して、悟と出会って、呪力コントロールを身につけた。
唯一無二の呪言"呼出"
"霧雨"の分解、
拡張術式、我幻悉糜(がげんしつび)
私はただ呪術という未知の学問に対して夢中になった。家のことなんて忘れて。…いや、ただ目を背けていただけなのかもしれない。家族のことから。5年も。
だから今、正直言うととても帰りたい。
客間に案内された私たちは、畳に座り込む。玄関先での私たち親子の様子を見て思うところがあるのだろう、パンダは口を開く。
「……針。」
「わかってる、黙って。」
しかし、私はパンダの言葉を遮り一刀両断した。
存外まともな母に対して反抗的な態度を取ることが大人気ないということは自分でもわかっている。
……わかっていて尚、この態度なのだ。
今同じことを言われてもされたとしても、こんなに深くは傷つかないだろう。けど…幼い頃についた傷だけがいくつになっても治らない。
「産まなければよかった。」
と、昔聞いた母の言葉が忘れられない。私は目を閉じて何も考えないようにした。
______しばらくして母が茶を運んできた。お盆を脇に置くと母もまた私たちの向かいに正座する。
5年ぶりの再会だと言うのに私と母は会話が弾むどころか互いに一言も発することなく、ズズズ…とパンダが茶を啜る音だけが響いた。
「…………棘は、治療を受けて安静にしているわ。」
沈黙を破ったのは母だった。