第18章 今之感情と昔之感情
「ふん、渡したものを返すなど無礼な娘だ。」
禪院直毘人は夏だというのに湯呑みに入った熱そうな茶を啜りながら偉そうにふんぞり返った。
「だが、肝心な"霧雨"はどうした。手ぶらで来てどうする。」
「…あれ、そんな名前なんだ。」
ああ、よかった。聞き出す前に名前を知れた。
今の私は呪力が溢れて術式が乱れやすいから、ある程度対象を絞られるように呼び出さないと、"大剣"だけでは何が現れるかがわからないから。
「……"霧雨"。_____どうぞ、お返しします。」
「…………ほう。」
霧雨が呼び出された様子を見て、禪院直毘人は感心するように唸り口元に手を当てた。敷かれた畳が霧雨の重みで痛んでしまっていることはどうでもいいようだ。
「今は夏休みか。」
「そうだけど…。」
「うちに滞在しなさい。」
「はい?」
どうやら、私は本当に禪院の門戸を叩いてしまったようだ。
進学校を受験する予定だった私の夏休みは、勉強ではなく呪術師の修行に奪われてしまった。