第18章 今之感情と昔之感情
「チッ………こんのクソガキ、」
突如現れた大量のネズミが私の仕業だとわかったのだろう、彼が私に怒り今にも手を出しそうなその時だった。
「騒がしいぞ、直哉。」
着物を見に纏った、厳格な風貌の老人がこちらに近づいてきた。幼い私でもわかる、只者ではない雰囲気に空気が張り付く。
その老人のことを、金髪のガラの悪い男は「親父」と呼んでいた。…この人も禪院の人なんだ。
下駄を鳴らしてゆっくりとこちらへ近づく老人は、青年の一歩前に出ると、
「狗巻の長女か。」
と呟いた。それから、私を値踏みするようにジロジロと見つめた。
何を見ているんだろう。…幼い頃散々上層部から見下されてきた私は、おどろおどろしさを感じて思わず少し後退りをした。
「禪院の相伝術式は2種類ある。」
「……?」
しかしそんな幼心の心配は他所に、老人は全く身も蓋もない話を始める。私に絡んできた青年は、老人のその言葉を聞くと「おもんな。」と舌打ちをして、それからつまらなさそうな顔をすると何処かへ行ってしまった。
そんなものは気にも留めず老人は話を続ける。
「……投射呪法は比較的新しい呪術でな。貴様の"それ"は、ただ生まれたのが今の時代であっただけかもしれんな。…或いは過去にも存在した異例なのかもしれんが。」
何か思うところがあるのだろうか?老人はその視線の先に特に何かあるわけでもないのに、少し遠くを見つめた。
それから私に視線を戻すと
「強くなれ。」
と言った。