第3章 星はひかれど燎火をもとめる原いん
細長く線画綺麗な指を赤い夕陽に変わって白い月明かりが照らして、透き通って見えた。
…どうしよう、何か緊張してきたかも。
手にじんわりと汗が滲み出すのがわかって、思わず手を掴むのを躊躇してしまう。どう反応すればいいのかもわからなくてオロオロしていると、それに気づいたのか五条先生の方から私の手を掴んだ。
「恋人同士だから手はこう。」
掴まれた手が絡め取られて先生の手が私の指と指の隙間を縫う。こうして触れ合うとわかるが、先生の手は見た目よりも骨張っていてゴツゴツとした手だった。
「なっ……な、ちょっと待って、これ…私、ダメかも………。」
まさか先生と手を繋ぐことになるなんて。そもそも先生とこんなことをするなんて思いもしなかった私は緊張して頭がいっぱいいっぱいになり建物内に入っても全く集中できなかった。
最悪だ、顔が熱い。
きっと五条先生のことだからからかうに決まってる。きっと今だって馬鹿にしてニヤついている。
先生の顔色を確認しようと覗き込むと案の定余裕のある顔で口元が緩んでいた。
「先生ってば本当に女たらし…。」
「ん?」
「だって、こんなこと気軽にできちゃうんだから。私どころか他の女の人に対しても好きとか可愛いとかそういう感情持ってなさそう。私なんて先生が…」
……しまった。勢いのあまりに話しすぎた。緊張とイラつきの両方から早口で思っていることを全て話しそうになった。慌てて口を紡ぐと不思議そうな顔をした五条先生がこちらを向いてどうしたの?と今度は先生が私の顔を覗いた。
「あんまり、こっち見ないでよ。」
二十歳を超えてもなお自分の感情を制御できなかった子供っぽさが恥ずかしくて、私は顔を逸らした。
すると五条先生は立ち止まって繋いでいた手を離す。離れた手はゆっくり私の頬へ運ばれて、そのまま優しく包み込んだ。
「僕は針のこと可愛いと思っているよ。」