第3章 星はひかれど燎火をもとめる原いん
「そういうことになります。…ですがまあ報告によれば手を繋ぐだけでも呪いは現れたそうなのであまり過激なことはする必要はありませんよ。」
ごほん、と咳払いをして調子を整えた伊地知さんはタブレットの報告書を読みながらそう答えた。どうやら本当にフリだけでいいらしい。
…よかった、過激なことしなくて。私は21歳にしてまだキスどころか恋人すら一度もできたことがない。
つまり、世間一般で言うところの喪女。そんなの五条先生にはバレたくない。女として魅力がないとか思われたくないから、絶対に。なんか負けた気がするし普段から女として認識されてないし、喪女なんてバレたら人間として敗北した気がする。なんとかして私も立派な女になったってことを証明しないと…!
「じゃ、行こうか針。」
裏であれこれ考えている私の気持ちなど知りもせず、五条先生は今も平気な顔をして普通に車から降りて行った。この女たらし、遊び人。そりゃ手繋ぐだけだけど私にとっては全部初めての経験なんだからもっと優しくしようとか思いなさいよ。というかもっと態度で示してくれてもいいじゃない!
……ってこれじゃ本当のカップルみたい。
なんだか気が重くなる任務内容に深くため息をつきながら私もまた車から降りた。
なんとなく気が乗らないため足取りがつい重たくなる。ちまちまと進む私を門の前で待っている先生は待ちくたびれたのか、こちらに手を伸ばした。
「ほら、針。早くしないと置いて行っちゃうよ?手、繋ぐんでしょ?」
細長く線が綺麗な指を赤い夕陽に変わって白い月明かりが照らして、透き通って見えた。
…どうしよう、何か緊張してきたかも。