第18章 今之感情と昔之感情
しかし、希望が産まれたのはその翌年だった。小さな小さな男の子。
その子は棘と名付けられた。
私の弟だ。
彼もまた、呪力を持って産まれた。立て続けに呪言師が産まれるのは狗巻家からすれば異例のことらしい。しかし私という事例があった為上層部も一心に喜ぶことはしなかったそう。
だが、棘は私とは違った。
望まれた呪言師の才能を持って産まれた。最初は少しだけ羨ましく感じた。
棘の教育について上層部と揉めてしばしばベビーベッドで放置されている棘の顔を見つめては
「いいな。」
と呟いた。
何も知らずにニコニコと笑う棘の頬を人差し指で突つくと少し怪訝な顔をしてそっぽを向かれる。それが面白くて何度か繰り返していると、ぎゅっと棘に指を掴まれてしまった。
「あっ、」
と私が少しだけ驚いて残念そうな顔をすると、棘は一層嬉しそうに笑った。
私が少し力を入れると棘の手から私の指は簡単に解放される。すると、今度は棘は口を結んで瞳を潤した。
泣きそうな棘をなんとかしなければと、また棘の手のひらに人差し指を向けるとぎゅっと棘はまたそれを強く握る。
ベビーベッドの柵が煩わしく感じるほど、私は棘の虜になったのだった。