第17章 愛にかわる苦しみと離別
私はパンダと共に11月に解約予定だった以前住んでいたマンションへと帰宅した。
ここは仲のいい知人にしか住所を教えていない。高専の追手に見つかる可能性が低いだろうと見越してのことだ。
玄関に着くとドアノブに巾着がかけられており、巾着を開くと1枚のメモ用紙のみが入っていた。そして、巾着の裏地には蛇目と牙の紋様が描かれている。
「…実家からだわ。」
「実家っつーと狗巻家か。」
巾着を手にもつ私の後ろから覗き込むパンダ。2人で小さく佇んでいるメモの中身を確認した。
"帰ってきなさい"
メモにはそれだけが書かれていた。
「げっ…。」
それを読んで間も開けず、私は嫌悪の態度を示した。もちろん、帰りたくないからだ。しかし私をない者と扱っていた実家からわざわざこうして手紙が来るということは重要な何かが…
………そうだ。
「棘がいるんじゃねえのか?」
「……ええ、それだわ。」
私が口に出す前にすかさずパンダが口を挟む。それ以外に理由はないわね。…というかここの住所教えたの棘だろうし。
「はぁ……………。」
帰りたくない。ただ、住所を教えたということは棘が狗巻家を信用に値すると判断したということ。弟の判断を信用しないわけにもいかない。
うーんと唸り声をあげているとパンダが、「先に入ってるぞ」と玄関のドアを開けた。