第3章 星はひかれど燎火をもとめる原いん
2018年、7月7日。
「これなら織姫と彦星も会えそうだね〜。」
雲一つない赤く燃えた空を見ながら彼は言った。夕空は遠くに向かって徐々に青がかり紫色へと変化している。私たちは空き家になった豪邸へと任務のために向かっていた。
「男女がいないと出現しない呪いって…つくづく七夕はこういう話好きよね。こんなデリカシーのない男と七夕で二人っきりとかロマンも何もないと思うんだけど。猪野とか暇じゃなかったの?」
そう、五条先生と。あと運転をしている伊地知さん。
呪術師は女より男の方が多いのでぶっちゃけわざわざ五条悟である必要性はない。ちなみに猪野は私の同期。
不満そうな顔をしている私を見て五条先生は口を尖らせた。珍しく五条先生も少し不満げに見えた。顔は笑っているが声色が少しだけ低く感じる。
「そんなつれないこと言わないでよ、意外と僕ロマンチストだよ?映画も結構見てるし情緒で溢れまくってるから針のこと満足させられると思うな」
「え、あー…うん。」
いつもより余裕がなく、捲し立てるような話し方をする先生を見て驚いてしまった私はなんと答えたらいいのか咄嗟に出てこず歯切れの悪い返事をした。
しばらく怪訝な空気が流れる車内。沈黙を破ったのは数十分後、伊地知さんの声だった。
「着きました。ここが今回の目的地、近衛家です。」
停車した車の窓から豪邸と呼ぶのにふさわしい立派なお屋敷が見えた。大きな門に庭から家までの距離は50メートル、もしくはそれ以上ありそうだ。
放ったらかしにされた庭は雑草で荒れ果て、かつては綺麗だったであろう花たちも無造作に生えて恐ろしさを際立てていた。
私が屋敷の外観を眺めていると伊地知さんは続けて説明を始めた。
「この辺りの土地の元持ち主で数年前に使用人も含めて一家全員が殺されています。事件が起きてすぐは近所の人は寄り付きませんでしたが、最近は心霊スポットとして有名な場所になっています。それでですね…」
淡々と説明をする伊地知さんだったが、ここで少しだけ言葉が詰まる。何かはわからないけれどとても言いづらそうにしていた。
「えー、呪いが現れるときは手を繋いだ瞬間、キスしようとした瞬間と何かしら恋人らしいことをしたときだという報告が多くて…」
「………あー、なるほどオーケー。つまり私と五条先生は恋人のフリをしろってこと?」
